万博と網膜剥離
- 2025年9月4日
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裂孔原生網膜剥離で緊急入院・緊急手術となった。網膜に穴があいてそこを起点としてどんどん網膜がはがれていく病気だ。手術ではその穴をレーザーで焼いて塞ぎ、眼球内にガスを注入して網膜を押すようにする。眼球の後ろのほうの網膜が剥がれたので、ガスが網膜を押さえるためにはうつ伏せにしておかなければならない。術後の辛さは痛みや腫れではなく、この”うつ伏せ”であった。
まず寝るときにはずっとうつ伏せ。普段そんな寝方をしないので、これが一番つらい。起きているときも下を向いていなければならない。もちろん食事も。飲み物はストローを使い、スープやみそ汁はスプーンを使う。歩くときは「下を向いて歩こう」だ。そのため眼科病棟では部屋番号をはじめいろいろな情報が壁の下や床にも書かれている。これは下を向いて歩いて初めてわかったことだ。
下を向いてガスが後ろの網膜部分にあると、視野のほとんどが黒い丸い物体として映る。でも眼球内の一部がガスなので、頭位を変えるとその黒い丸い物体が動くのだ。眼球内は房水と呼ばれる水で満たされているが、そこにガスを注入すると、軽いガスが上、重い水が下という位置関係をキープする。眼球内というデリケートな組織で、単純な物理法則が守られていることに感動。
術後、眼圧が低いと指摘を受けた。眼圧は測定のときに急に空気銃でやられる”あれ”だ。通常は房水が網膜を押している圧力で、私の場合、これが低いと網膜をしっかりと押さえられない。どこかにリークがあるかもしれないということで、眼球に軟膏を塗りましょうということになった。眼球に軟膏!?点眼でさえあまり得意ではないのに、、、軟膏!?でもこれもすぐに慣れてしまった。滅菌ガーゼに軟膏を付けて眼球に直接塗るのにも慣れてしまった。朝、昼、晩に3~4種類の点眼をすることにも慣れた。
入院していた阪大病院は万博公園に隣接していて、病室の窓からは太陽の塔の背中が見える。そして関西万博のイベントとして、その上をブルーインパルスが飛ぶというではないか。開催されている関西万博のほうからブルーインパルスが飛び立つ時間から換算して、いつぐらいに太陽の塔の頭上を通過するかを割り出した。その時間の近くになると太陽の塔に近づいてくる飛行機と白い飛行機雲が小さく見えている。カメラを構えて太陽の塔の近くで右に方向を変え、太陽の塔の頭上を通って東に抜けるところをカメラにおさめた。後で確認したらかなり小さくしか映っていなかったが、私が入院中、唯一上を向いた瞬間であった。